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大阪高等裁判所 昭和28年(う)1749号 判決 1954年3月10日

主文

原判決を破棄する。

被告人五十嵐利市、同戸松政治を各懲役一年に、被告人石井アサを懲役一〇月に、被告人坂本竜三、同井上信男、同川上勲、同直村静二、同辻井久子、同杉原忠夫、同和田勇、同中山千代子、同浜口清を各懲役八月に処する。

≪訴訟費用の点は省略≫

理由

本件控訴の理由は、記録に綴つてある、被告人五十嵐利市名義及び大阪地方検察庁検事正代理検事藤田太郎名義の各控訴趣旨書記載のとおりであるから、これを引用し、これに対し当裁判所は次のとおり判断する。

第一検事の被告人石井アサに対する控訴趣意について。

(一)原判決は本件公訴事実第一につき、原審第三、四回公判調書中の証人飛弾憲一、第五回公判調書中の証人塩塚忠美、第七回公判調書中の証人西川恒行の各供述によると、被告人、石井アサ及び原審相被告人平沢一美はいずれも大日本紡績株式会社貝塚工場の工員であつたが、昭和二五年一一月八日同会社から同会社従業員を以つて組織する大日本紡績労働組合との間の労働協約第二一条第一項第三号の「已むを得ない業務上の都合による」との理由で、同月一四日までに任意退職しないときは同月一五日附を以つて解雇する旨の通告を受けたがこれに応ぜず、同月一五日更に会社側からなされた任意退職の勧告を斥け同日附を以つて解雇せられたことが明らかであり、右石井、平沢の両名が同月一七日午前四時四〇分頃会社側から立入を禁止されていた貝塚市半田一五〇番地大日本紡績株式会社貝塚工場第一工場精紡工場へ入つて工員に対しビラを交付したことは、原審第四回公判調書中の証人大工園ツヨ、椎原フヂエ、若松チヱ子(原判決に大工園ツタ、椎原フジエ、岩松チエ子とあるのは誤記と認める)等の各供述、原審証人木場学尋問調書によりこれを認め得られるが、右解雇処分はこれを正当付けるに足る具体的な行動、事実の裏付けなしに、要するに被告人石井アサ等がただ単に共産党員であるというそのことだけの理由としてなされたものであり、直接には使用者に対し労働者の信条を理由として労働条件について差別的取扱をすることを禁じた労働基準法第三条に違反し、更に国民は法の下に平等であつてその信条によつて経済的、社会的関係において差別されないことを国民の基本的権利の一として保障した日本国憲法第一四条に違反する旨決断し、更に進んで被告人石井アサ等が前記工場へ入つて工員にビラを交付したことが建造物侵入罪を構成しない理由として(イ)被告人石井アサ等は同人等に対する解雇は無効であるから工場へ入つても差支えないものと信じていた。しかも工場への立入禁止は右の解雇と不可分の関係においてなされたものであるが、依然として日紡貝塚工場の工員たる資格を有する同被告人等に対し謂れなき差別待遇をなしたことに帰するので、同被告人等が工場へ入つても差支えないと信ずるについては相当の理由があつたものと解するのが相当である。(ロ)右被告人等の所属の労働組合は右解雇を承認する態度に出ていたので、同被告人等としては組合を通じて不当解雇に対する抗議をなす途は閉されていた。しかし経営者側の不当解雇に対し勤労者としての立場において、同被告人等が自ら直接に相当の手段による抗議をなすことは許容せらるべきであり、この抗議手段として職場の同僚に対し不当解雇を訴えその救援のためストライキを呼びかける挙に出でたことは、明日の生活を心配する一介の女工員たる地位境遇からみてまことに已むを得なかつたものである。(ハ)同被告人等は特に作業時間開始前の時刻を選び守衛その他何人の制止を受けることなく平穏に工場に入り同僚工員に平穏な言葉で話しかけたりビラを手渡したり等して不当な解雇処分を受けた同被告人等を救援するためのストライキを懇請する挙に出ただけであつて、その間何等暴力的乃至業務妨害的な意図も結果もなかつた。(ニ)以上の事実関係のすべてを綜合的に観察して被告人石井アサに対する公訴事実第一の同被告人の行為は経営者の一片の管理権によつてはその正当性を奪い得ざるところの憲法によつて保障せられた勤労者の団体行動権の一発現としての権利行為に当るものと判定する。よつて同被告人の行為は刑法第三五条により違法性を阻却し無罪たるべきものであると説示している。そして原判決は前顕飛弾、塩塚、西川の三証人の供述によれば本件解雇は大日本紡績株式会社本社で作成せられた緊急人員整理実施要項に基き、共産主義的活動に関連を持つもので事業の社会的使命に自覚を欠くもの、円滑な業務の運営に支障を及ぼすもの、常に煽動的言動をなし他の従業員に悪影響を及ぼすもの及びこれらの虞あるものを排除する趣旨の下に行われた所謂レツドパージに該当するものであること、而して会社側に於ては右被告人石井アサ及び平沢一美はいずれも日本共産党員であるが、社内において「糸ぐるま」という細胞機関紙を発行し、その紙上に「食事がまずい」「賃金が安く馬鹿々々しくて働けない」「税金は私達からとらないで会社からとつて欲しい」「ストをやらなくては駄目だ」等の記事を掲載し、又被告人石井は「新版女工哀史」と題して「働く婦人」昭和二三年八月号に掲載せられた職場座談会において日紡貝塚工場では工員に対し動物的な取扱をするとか、きれいな人には楽な職場があてがわれ、きりようの悪い人は給料が悪い等と虚構の事実を述べ、又平沢は事故早退、時間外帰寮が多くその回数前者は月平均三回後者は月平均八回に及び、更に同人は従来五人でしていた連篠機の掃除を四人でするよう命ぜられたところ反対だといつて他の工員にも反対すべく煽動し、いずれも紡績事業の社会的使命についての自覚を欠き、円滑な業務の運営に支障を及ぼし、且つ常に煽動的な言動によつて他の従業員に悪影響を与えたものとして前記実施要項掲記の整理規準に該当するものと認め、前記労働協約第二一条第一項第三号の「已むことを得ない業務上の都合によるもの」として、右両名を解雇したことが認められるが、右両名が日本共産党員であることを認める証拠があるだけで、共産主義的活動に関連を持つものについての「地区委員会その他党機関事務所に出入するもの」外一三項目にわたる具体的基準に該当することについてはこれを確認する証拠はない。又右両名が細胞機関紙「糸ぐるま」紙上に掲載した記事、被告人石井の「働く婦人」紙上の座談会の発言及び平沢の連篠機の掃除に関する言動はたとえ真実右両名によつてなされた行為であるとしても、それは労働者が有する使用者の経営管理の方針に関する自由なる批判の範囲に属するもので、たやすくこれを以つて煽動的言動をなし他の従業員に悪影響を及ぼすものと看做すことはできない。又平沢の事故早退、時間外帰寮の多い点も他の従業員に悪影響を及ぼすものとは解し難い。これを要するに右両名について会社側が解雇の理由とした行為はすべて会社側が樹て右両名がこれに当るものとした前掲整理基準に当るものとは到底認め難く、その他一般的に企業破壊的行動と認められるような具体的事実は何等これを認めるに足る証拠はない。しかも他に何等か解雇について正当の事由の認められない以上、右両名は「已むことを得ない業務上の都合による」という名の下に実は単に共産党員であるというそのことだけの理由で解雇されたものと解せざるを得ないと判示している。

これに対し検事は先ず右解雇の原因たる事実の認定に誤があると主張するので審案するに、前顕証人飛弾憲一(日紡貝塚工場労務長)は原審第三回公判期日において、「石井或いは平沢の名前でいとぐるまという新聞が出て居りこれが煽動的で他の職員に悪影響を与えると思われた」と述べ、又第四回公判期日において、「昭和二三年八月の雑誌働く婦人に女工哀史という見出しのある座談会の記事があつて、貝塚工場は工員を動物的に取扱するとか顔のきたない人は給料が安い等真実でない針小捧大的なことがいわれて居り、その後も糸ぐるまが同じように針小捧大の傾向にあつて、「賃金が安く馬鹿馬鹿しくて働けない」とか「税金は私達からとらないで会社からとつてほしい」とか「ストをやらなければ駄目だ」とか記事が皆の喜んで働けるような雰囲気を作らせないようにして云々。糸ぐるまに今いうたような記事を書いて皆の心を動揺させたことや、働く婦人という雑誌の記事等は石井の場合事業の社会的使命に自覚を欠くところがあることに該当すると思う」と述べて居る。又証人塩塚忠美は原審第五回公判期日において「石井、平沢の両人は糸ぐるまその他の刊行物により虚構の事実や針小捧大的事実、煽動的な事実を発表していた。石井は何月号かの働く婦人という雑誌に男女の挨拶は尻をなでてするとか、外との連絡に凧を掲げたとか、人身売買が行われているというような虚構の事実を発表した外糸ぐるまで会社が儲つてないのに儲けていると針小捧大な発表をしたり、交渉の際まだ交渉に入つたか入らぬ位からストで闘いとれというような煽動的な事実を発表していた」と述べ、証人西川恒行(元大日本紡績労働組合貝塚支部長)は「本件当時労組の支部長をしていた。糸ぐるまはがり版刷りの新聞で石井アサや平沢等が責任者になつていた。働く婦人に石井や平沢が書いたことがあつた。それについて組合規約中の統制規定に違反したということで一般組合員としての権利を停止した。それは昭和二五年夏か秋頃で期間は四ヵ月であつたから本件当時は右期間中であつたと思う。デマねつ造で統制の秩序を紊す。内部のことを外へ発表するときは一切の責任は情報宣伝部長が担つている。それに違反したことでした」と供述している。以上の証拠を彼此総合すれば被告人石井アサが糸ぐるまと題する新聞紙に他工員の不平を誘発し作業意欲を低下せしめる虞ある記事を掲載し、又働く婦人誌上にその記事が掲載された座談会において、会社を誹謗する虚偽の事実を述べたことが明らかである。思うに検事も指摘する如く、一般に近代企業においてはあまたの労働力が一定の経営秩序の中に有機的、継続的に組織付けられて、使用者によつて組織的、統一的に指揮監理せられているのであつて、労働者は労働条件の決定に当つては使用者と対等の立場にあつて折衝し、そのため正当な争議行為に訴えることも許されるけれども、いつたん労働条件の決定をみた以上その範囲内において労働者は使用者の指揮命令に従つて債務の本旨に適合する労務を負うのであり、工場事業場における労働の協同性、労働関係の継続性に鑑み、職場規律を守る義務、企業の秘密を守る義務、企業の信用体面を傷けぬ義務を各遵守しなければならないことは多弁を要せざるところである。そして被告人石井アサの前記記事の掲載及び座談会における発言は明らかに前記義務に違背するものであつて、原判決のように労働者が有する使用者の経営管理の方針に関する自由なる批判の範囲に属するものとしてこれを認容することはできない。従つて被告人石井アサの叙上の行為は前掲整理基準である「事業の社会的使命についての自覚を欠き円滑な業務の運営に支障を及ぼし、且つ常に煽動的な言動により他の従業員に悪影響を与え又はその虞ある行為」に該当するものというべく、しかも会社側が被告人石井アサをその共産党員であるというだけの理由で解雇したものであるという証拠は記録上いずこにも発見することはできない。されば会社側が右被告人を已むを得ない業務上の都合によるものとして解雇したのは同被告人の政治的信条を理由として、差別的取扱をなしたものでないことが明らかであるから、原判決のいうが如く労働基準法第三条に牴触しないのは勿論憲法第一四条第一項の規定にも違反しない。

次に原判決が本件公訴事実第一の被告人石井アサの所為は建造物侵入罪を構成しない理由として説示するところを検討するにその(イ)は不法に侵入する意思がなかつたこと、即ち犯意なきことを根拠とするものの如く、(ロ)は緊急避難の法理を援用するものの如く、(ハ)は工場に立入つたことが暴力的意図の下になされたものでなく、又そのような結果の発生もなかつたことを理由としているものの如く、最後には労働者の団体行動権の一発現としての権利行為と認められるから刑法第三五条により違法性を阻却するものであるとなし、その間互に矛盾撞着の感なきにあらざるのみならず、(イ)仮に被告人石井アサにおいて解雇が無効であると信じていたとしても、会社側では解雇の理由を円滑な義務の運営に支障を及ぼし、且つ煽動的な言動により他の従業員に悪影響を与え又はその虞ありとしていること前段認定のとおりであるから同様の理由により工場への立入を禁止したものであることは同被告人も当然了知していた筈であり、従つてたとえば同被告人が自己の寄宿舎に居住し、或いは自己の職場に赴き、又は工場事務室へ解雇の無効確認の交渉に赴くことはもとより違法ではないけれども、午前四時四〇分頃というが如き刻に自己の職場でない精紡工場へ立入ることが差支えないと信じたとはとうてい考えられないし、又そのように信ずるにつき相当の理由があつたこともこれを首肯し難い。(ロ)被告人石井アサ等所属の労働組合が同被告人等の解雇を承認する態度に出ていたことは原判決の摘示するとおりであるが、前記西川証人の証言によると、前段説示の如く同組合では同被告人等を組合の統制を紊つたものとして組合員の権利の停止をしていた際でもあり、解雇已むを得ざるものと認めていたことを首肯し得るのであつて、同被告人等において原判決のいうが如く不当解雇に対し抗議するのであれば会社又は組合当局を相手方としてなすべきであり、職場の同僚に対し同被告人を不当解雇から救援のためストライキの挙に出ずべきことを呼びかけるが如きは順序を弁えない暴挙であり、又被告人石井アサ等が明日の生活を心配する一介の女工員であつたとはとうてい考えられない(むしろ同被告人等が解雇手当失業手当等により急場を凌ぎ次の就職先にありつき得たであろうことは記録上窺知するに難くない)ので、同被告人等の所為を已むを得なかつたものということはできない。(ハ)工場の従業員に対しストライキを呼びかけその旨のビラを撒くことが平穏な行動であることは社会通念に照らしても是認できないのみならず、ストライキを煽動することは争議行為そのものではない。しかも憲法第二八条が保障するのは勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利であつて、すでに結成せられた労働組合に所属する勤労者が組合の規約を無視し、成規の手続を経ずして各個の勤労者に対し直接ストライキを煽動するが如きは、権利の濫用であつて厳禁せらるべきは論なきところである。原判決がこれを憲法によつて保障せられた勤労者の団体行動権の一発現としての権利行為に当るとなすは明白な謬論であるといわなければならない。それ故にこの点に関する原判決の判断はいずれも失当たるを免れない。

(二)原判決は本件公訴事実第二につき被告人石井アサ及び平沢一美において爾余の被告人等が外一〇数名と意思連絡の下に相呼応して昭和二五年一一月二三日午後一時過頃前示大日本紡績株式会社貝塚工場に故なく侵入し同工場内労務事務所等において卓上電話機等を損壊した犯行に共謀した点につき犯罪の証明十分ならずと判示している。しかし検事摘録の各証拠の内容を仔細に検討すれば、その主張するが如く被告人石井アサが平沢一美と共に事前において爾余の被告人等と連絡打合を遂げていたものであることを是認し得られ、原判決に事実の誤認あることを疑うに足るものがあるので、この点においても論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

第二被告人石井アサを除く爾余の被告人等に対する検事の控訴趣意竝びに被告人五十嵐利市の控訴趣意について。

原裁判所が被告人石井アサを除く爾余の被告人等に対し有罪の認定をなしながら懲役六月乃至懲役三月というが如き短期刑を量定し、しかも当時前科の刑の執行猶予期間中であるため再び刑法第二五条を適用すべき余地がなかつた被告人五十嵐利市を除きすべて三年間右刑の執行を猶予する旨の判決をなしたのは、本件犯行の遠因を被告人石井アサ竝びに平沢一美の解雇に発するものであり、しかも右解雇は憲法竝びに労働基準法に違反する無効のものであるとの前提に立脚するものであるが、前段説示の如く右解雇の効力に関する見解を謬てりとする以上、すでにこの点において原判決の量刑は失当たるを免れないのみならず、記録に現われた諸般の情状に鑑みるときは解雇せられた同僚に対する同情から会社との間に争議行為を生じた際における事案とその趣を異にし、会社側の措置に何等遺憾な点は存しないのに、不当解雇の糾弾に名を籍り、民主主義においても最も排斥すべき暴力の行使に出で、しかも犯跡隠蔽に周到な注意を用いたる上、被告人戸松政治指揮の下に各自割薪及び旗竿を携えて気勢を張り会社側を威圧屈伏せしめようと企図したものであり、しかも被告人等は公判廷において会社側の証人に対していやがらせ的質問を浴せて困惑せしめ、最終陳述においても穏かならざる言辞を弄して居りかかる被告人等に対し何を根拠に原判決所謂今後の反省自重に期待し得るのか了解に苦しまざるを得ない。なお被告人五十嵐は本件犯行後数日を出でずして同種の犯行により昭和二五年一一月二八日大阪地方裁判所におい懲役六月三年間執行猶予の判決を受けているのであつて、今や右執行猶予の期間は満了して居り、家庭の情況を愬えて寛大な処分を求めるけれども、真に改悛の情があることを未だ確認し難いのみならず、その罪責の重大なるに鑑みるときはむしろ、原審の量刑は軽きに失するものといわなければならない。これ故に検事の論旨は理由があるが、被告人五十嵐の論旨は採用し難い。

よつて被告人石井アサに対する控訴については、刑事訴訟法第三九七条第一項第三八二条、その余の被告人等に対する控訴については同法第三九七条第一項第三八一条に則り各原判決を破棄し、なお同法第四〇〇条但書を適用して当裁判所において次のとおり判決する。

一、被告人石井アサに対する判決

(罪となるべき事実)

被告人石井アサは大阪府貝塚市半田一五〇番地所在大日本紡績株式会社貝塚工場に工員として雇われていたところ、昭和二五年一一月八日同会社から同月一四日までに任意退職しない限りは同月一五日附を以つて解雇する旨の通知を受け、更に同月一五日重ねてされた任意退職の勧告を拒否したため、同日を以て解雇せられ同時に作業場への立入りを禁止せられたものであるが、

(一) 同様解雇せられた平沢一美と共謀の上、前記解雇が正当の事由に基かないものであるから、被告人等を救援するためのストライキをなされたい旨のビラを撒布する目的で、同月一七日午前四時四〇分頃前記工場の工場長塩塚忠美の看守する第一工場精紡工場内に立入り以つて右工場内へ不法に侵入し、

(二) 被告人五十嵐利市、同坂本竜三、同井上信男、同川上勲、同直村静二、同辻井久子、同戸松政治、同杉原忠夫、同和田勇、同中山千代子、同浜口清及び前記平沢一美等と共謀の上、被告人石井アサ等を解雇したことの不当を糾弾し、被解雇者を救援するため、前記貝塚工場の昼食時の工員交替時間に同工場に侵入しアジビラを撒布し、或いはアジ演説をして右解雇の不当を訴え同工場の工員等をしてストライキに突入させる目的で同月二三日午後一時過頃外一〇数名と意思連絡の下に相呼応して右工場の東南隅貨車引込門から各自割薪或いは旗竿を携え、同工場守衛の制止を押し切つて同工場内に不法に侵入し、同工場内労務事務所、電話交換室、女工員寮等において同会社所有の卓上電話機三基、電話交換機一台、窓硝子約五〇枚を損壊し

たものである。

≪証拠の標目省略≫

(法令の適用)

刑法第一三〇条、罰金等臨時措置法第三条、刑法第六〇条、暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項、刑法第二六一条罰金等臨時措置法第三条、刑法第四五条前段、第四七条本文第一〇条、刑事訴訟法第一八一条第一項本文、第一八二条

二  被告人五十嵐利市、同坂本竜三、同井上信男、同川上勲、同直村静二、同辻井久子、同戸松政治、同杉原忠夫、同和田勇、同中山千代子、同浜口清に対する判決

各原判決挙示の証拠により認められる各原判決摘示事実(但し被告人石井アサ等に対する解雇が法律上無効のものであるとの点を除く)に法律を適用すると被告人等の判示所為中建造物侵入の点は刑法第一三〇条、罰金等臨時措置法第三条、刑法第六〇条に、暴力行為等処罰に関する法律違反の点は同法第一条第一項、刑法第二六一条、罰金等臨時措置法第三条に該当するから、各所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇条により犯情重いと認める暴力行為等処罰に関する法律違反罪の刑に法定の加重をなした刑期範囲内においてそれぞれ主文第二項掲記の刑を量刑処断し、なお訴訟費用につき刑事訴訟法第一八一条第一項但書、第一八二条を適用し、その負担を定める。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長判事 岡利裕 判事 国政真男 石丸弘衛)

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